プレスリリース
平成16年4月22日
遺伝子組換えによる「高トリプトファン含量イネ」の
栽培実験計画案についての情報提供
独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構
作物研究所
作物研究所では、当研究所で作出、選抜した遺伝子組換えイネ系統の栽培実験を実施する予定です。現在、農林水産省・環境省に対し「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)の第1種使用規程に基づく栽培実験計画の承認を申請中です。承認を得られた場合には、茨城県つくば市観音台にある一般研究圃場で栽培実験を行います。
農林水産省・環境省から承認審査の一環としてパブリックコメントが実施されましたので、この機会に当研究所から、栽培実験計画(
別添)と説明会等の開催予定等について発表します。
1.栽培実験計画案の概要
1)実験の目的
必須アミノ酸であるトリプトファンは、ニワトリ、ブタなどの飼料に微生物合成の製品が添加されて利用されています。トリプトファンを適量添加することによって家畜の体重増加を良くするなどの効果に加えて、アミノ酸バランスの改善により飼料の給与総量を減らし、家畜排泄物を削減させる効果も知られています。今回の栽培実験は長期的な飼料用イネ育成のための基礎的データを得るために、トリプトファン含量の高い組換えイネ実験系統の栽培特性を調査するとともに、飼料米としての栄養価値を評価する給餌試験に必要な試験米を生産することが目的です。
2)実験の材料
トリプトファンの合成に関与するイネ由来のアントラニル酸合成酵素αサブユニット遺伝子を改変して「日本晴」に導入した組換えイネ2系統及び比較用の原品種「日本晴」です(
別紙1,
別紙2)。組換えイネ2系統は、同一ベクター導入に由来しますが、トリプトファン含量の増加程度が異なっています。両組換えイネ系統は、選抜マーカーとして用いられるハイグロマイシン抵抗性遺伝子を持っています。
なお、これらの組換えイネ系統は、基礎研究として作出したものであり、一般農家への普及を目的としたものではありません。
3)実験場所
茨城県つくば市観音台地区にある中央農業総合研究センターの研究圃場(畑)内に 造成した約6アールの水田を使用します(
別紙3)。水田周辺には、花粉拡散防止と 保安を兼ねた柵を設けます。また、圃場の周囲には防風林帯があります(
別紙4)。
4)実験期間
6月下旬に田植えを行い、10月中下旬に収穫する予定です。実験圃場の利用申請は6月1日〜11月1日を申請しています。
5)交雑防止等のための措置
農林水産省が策定した「栽培実験指針」に基づき、一般栽培イネとの距離による隔離(指針:20m以上)で交雑防止を図ります。ちなみに、栽培実験水田から最も近い民有地までの距離は約250mです。また、一般農家水田までは約800m、農業環境技術研究所試験水田までは約250mの距離が確保されています。このほか、栽培実験の田植え時期を遅らせて一般栽培イネよりも開花時期を遅らせる措置、防風網を張って花粉の拡散を減らす措置等を併用します。また、水田周辺等において、組換えイネの花粉飛散による一般栽培イネへの交雑の有無をモニタリングします。
6)混入防止のための措置
播種、育苗、移植などの作業は、材料別に明瞭な仕分けを行って混入を防止します。移植後は鳥等の食害などによる混入を防ぐため防鳥網を張ります。また、脱穀・調整作業はすべて水田外周柵内で行い、機械の清掃や洗浄を励行し、種子の漏出を防止します。稲ワラ等は柵内で堆肥化するか焼却します。
7)実験に関する情報の公開
栽培実験の計画、経過、結果等は、説明会、観察会、作物研究所ホームページ等によって公開します。
2.説明会の開催、情報提供の方法、管理体制
栽培実験計画説明会、圃場観察会を以下のように予定しています。また、作物研究所 ホームページで最新情報の公開に努めます。
【記者説明会】日時:平成16年4月28日(水)10時〜11時
場所:農林交流センター(つくば市観音台2-1-9)
【栽培実験計画説明会】日時:平成16年6月6日(日)13時〜15時 (予定)
場所:中央農業総合研究センター大会議室(つくば市観音台3-1-1)
【圃場観察会】7月中旬及び9月中下旬の2回予定しています。このほか、希望者に は、随時対応します。
【栽培実験に関する連絡先】 作物研究所 企画調整室 研究交流科長 根本 博
電話番号 :029-838-8880(直通)、FAX番号:029-838-8819(代表)
Eメール :nicskikaku@naro.affrc.go.jp
作物研究所ホームページ(URL):http://nics.naro.affrc.go.jp
研究所所在地:茨城県つくば市観音台2-1-18(郵便番号 305-8518)
研究総括責任者 :独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 作物研究所
所長 黒田 秧
栽培実験責任者 :独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 作物研究所
稲研究部長 井辺時雄
作業管理主任者 :独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 作物研究所
稲研究部 遺伝子技術研究室長 若狭 暁
情報提供者 :独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 作物研究所
企画調整室 研究交流科長 根本 博 tel:029-838-8880
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| 本資料は、農政記者クラブ、農林記者会にも配布を行っています。 |
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[用語解説]
トリプトファン
動物体内で十分に合成することができないため、食品から摂らなければならない必須アミノ酸の一種。ニワトリや豚の飼育では、リジン、メチオニンなどとともに飼料に添加して、アミノ酸配合飼料として給与されることが多い。トリプトファンの適量添加は家畜の体重増加を向上させるなど直接の効果があるほか、アミノ酸バランスの改善により飼料の給与総量を減らし、家畜排泄物の削減もできることが知られている。また、トリプトファンは人への鎮静やストレス緩和のためのサプリメントとしても市販されている。
「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)
2004年2月19日に施行された「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(いわゆるカルタヘナ法)」に基づき、遺伝子組換え農作物の環境への影響については、安全性を確保するために必要な措置が講じられた。
カルタヘナ法では、遺伝子組換え生物の使用形態について、環境中での使用を「第1種使用」、施設内などで環境中への拡散を防止しながらの利用を「第2種使用」と分類している。遺伝子組換え作物の第1種使用にあたっては、事前に使用規定を定めて、農林水産省及び環境省による承認を受けることが義務付けられている。
ハイグロマイシン抵抗性
遺伝子組換えの際に、目的遺伝子が入った細胞を選抜するために選抜マーカー遺伝子を一緒に組み込む方法がある。選抜マーカーには薬剤(カナマイシン、ハイグロマイシンなどの抗生物質)耐性遺伝子や除草剤耐性遺伝子が多く使われる。例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子とトリプトファン合成に関する遺伝子を一緒に導入し、ハイグロマイシン入りの培地で培養する。すると、目的の遺伝子と一緒に、ハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれた細胞だけが成長できるため、組換えが起こった細胞のみを選抜することができる。
栽培実験指針
農林水産省は2004年2月24日に「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」を取りまとめた。この指針は、農林水産省所掌の独立行政法人の研究機関において、組換え作物の栽培実験を行う際に、研究所周囲の一般農家が栽培する作物との交雑を防ぐことを目的に、必要な措置を定めたものである。
交雑を防止するための措置として、同種栽培作物との間に隔離距離を設けたり、あるいは開花前に花を摘んだり、おしべを取り除いたり、風や昆虫により花粉が媒介されないようにネットで覆うなどの方法が作物ごとに定められている。隔離距離によって交雑を防止する場合、イネは20m、大豆は10m、トウモロコシと西洋ナタネは600m隔離すべきであるとされる。
研究所周囲への影響だけでなく、研究所内での混入を防止するために、栽培実験の種子や収穫物の管理などについても構ずべき措置が定められている。さらに、栽培実験について地域住民や生産者などの理解を得るために、栽培開始の1ヶ月前までに栽培実験計画書の内容をホームページで公表したり、説明会を開催するなど、情報提供に努めるよう求めている。また、実験の経過について見学会を開いたり、終了後に組換えた作物をどのように処分したのかなど、適宜情報を公開することとしている。