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S菜園の大規模施設:S菜園は広島県にあり、3.2haの大型施設によってトマトを生産している農業法人です。施設はフェンロー型高軒高温室で軒高は5m、温室内部は全面コンクリート舗装されています。栽培ベットは、吊り下げ式(ハンギングガター)を採用しており、通常のベッド位置よりも高いため、収穫や管理作業では、立ち姿勢で作業ができるよう改善されています。また、栽培ベッド間の通路には暖房用パイプを兼ねたレールが敷設されており、レール走行式の高所作業台車(最高2.7mまで上昇)が利用されています(写真3)。従業員は約50名と、多いため、労務管理システムが不可欠となっており、独自にマニュアルを作成し、運営しています。また、経験と勘の農業ではなく、現場で使える技術を理論的に活用し生産性向上につなげることに重点をおいて生産を行っているそうです。

立体栽培のKファーム:Kファームは、栃木県にあり、施設の面積は0.92haあります。本施設の特徴はその栽培形態にあり、ベットを上下2段に配置して栽培面積を有効に利用するシステムです(図3)。栽培はトマト1株の果房を4段に抑え、効率的に更新させることにより、日産1.6tを可能にしています。施設内には上下2段の栽培ベットがあり、下段でトマトを収穫し、上段では、定植から収穫が始まるまでの育成中のトマトが栽培されています。下段のトマトの栽培が終わるとすぐに、上段のトマトを栽培ベットごと下段に降ろし、収穫が始まります。そして上段には新たに苗を定植します。このように効率よく、常に収穫できることが特徴です。大型施設で採用されている長段栽培は、新規就農者には技術的に難しい面もあるため、4段で摘心する本栽培法は、たとえ途中で失敗しても、ある程度取り返しのつく栽培法でもあります。なお、本施設は、生産物の95%をレストラン等の外食産業に出荷しています。

個人経営のSファーム:Sファームは、千葉県にあり、生産者が農業法人を組織し運営するサラダナとトマトの大型生産施設です。1989年から、トマト専業農家4人により水耕サラダナの大型施設4棟、2haを導入して始まりました。サラダナ栽培は栽培パネルの温湯消毒等の改良で生産が安定したそうです。平成11年には水耕トマトの大型施設4棟、2.2haが新たに加わっています。トマト栽培では、8段摘心栽培の年2.5作で、20t/10aを生産しています。トマトの選果・箱詰め・出荷はJA の共同選果場を利用しています。経営と培養液管理は雇用主が行い、栽培管理全般は周年雇用の女性パートが担って運用されています。法人組織とはいえ、個人経営で1ha以上の経営実績は、経営規模拡大の事例として注目されています。
完全制御型の植物工場:A社はTSファームタイプの完全制御型植物工場です。TSとは三角パネル(Triangle Panel)と噴霧水耕栽培(Spray Culture)それぞれの頭文字をとって名付けられています。植物は生育パネルと呼ばれる長方形の板に開いた穴に支持材とともに埋め込まれ、そのパネルを使い、二等辺三角形を作るよう立てかけます(写真4)。床とパネルで形成された三角形の中にはパイプが通っており、そこから霧状の培養液または水が一定間隔で放出され、植物の根はそれを吸収して成長します。光源には高圧ナトリウムランプを用いており、光合成効率を高めるためのCO2施用も行われています。その結果、TSファームの植物は露地栽培に比べ、約2倍の成長速度が達成されています。

本システムの特徴として、
太陽光・補光併用型の植物工場:茨城県にあるJ社の施設は、太陽光・補光併用型の植物工場として、平成16年から稼働しています。この施設は、0.53haあり、41m×4m×21基の高設プール(S/P方式)においてレタス及びサラダナを養液栽培し、周年生産しています(写真5)。これらの野菜は、あらかじめ発芽させた苗を発泡スチロール製のパネルの穴に定植し、このパネルを一定の温度に保った栽培養液を循環させているプールに浮かべ、太陽光及び高圧ナトリウムランプ(補光)を照射して栽培されます。パネルは、生育状況に応じて、順次、プールの端(定植直後の位置)から端(収穫する位置)へ移動されます。気温の制御は、パットアンドファン方式の冷却装置(昇温抑制)及びボイラー(加温)で行われています。なお、播種から収穫まで、およそ40日間を要します。また、この施設は、露地栽培よりも快適な環境と少ない作業負担で、一年中、毎日、安定的に野菜を生産することが可能です。生産された商品(レタス、サラダナ)は、大手百貨店、量販店及び外食産業等と契約し、天候に左右されることなく、一年を通して安定した価格及び量で出荷されています。

植物工場で生産された野菜は、露地で生産された野菜に比べ、味がないとか水っぽいのではないかという印象をお持ちでないでしょうか。植物工場で生産されたリーフレタスとサラダナの成分を標準分析表の値と比較しました(下記表)。統計的な議論がなされてはいませんが、いずれの成分もわずかな違いとなっています。この結果を見る限り、植物工場の野菜の味や成分は通常の栽培方法に比べて大きく異なることはないといえます。植物工場は半閉鎖系で栽培が行われるため,害虫や病原菌の侵入阻止が容易で、無農薬での栽培が可能です。一方で、温度、光や水分などの環境で野菜の品質は大きく変わることも明らかです。植物工場は、これらの環境を自在に制御できることから、栽培条件と成分との関係を明らかにする研究の進展によっては、味や栄養を高めた農産物の生産が期待されます。

農業には「苗半作」また「苗七部作」という言葉があります。それほど農業生産においては高品質な苗を作ることは重要なテーマです。大規模生産に対応して、均質な苗を大量に生産するためには、日時や天候に大きく左右される自然光は光源として適していないことが指摘されています。それは、光強度の植物成長に与える影響が、幼植物で特に大きくなるためです。
そこで千葉大学の古在豊樹教授らは、閉鎖型苗生産システムの概念を構築しました。これに基づいて、製品化された閉鎖型苗生産施設がT社の「苗テラス」です(コラム5)。その基本的な構成は、プレハブ庫内に断熱壁による閉鎖系を作り、空調のための家庭用エアコン、省エネ・少スペース・軽量化が可能なHF蛍光灯による照明、液肥施用および灌水を自動で行う装置を備えた施設です。施設は閉鎖系であるために、病虫害の侵入をうけないことから、農薬散布の必要はありません。そのため、低コストでの苗生産が可能で、2週間の育苗期間で1本当たり1円程度の苗作りが可能です。苗テラスで育成した苗は、胚軸が太く葉肉が厚くなり、がっしりした苗になる傾向があります(表2)。現在、様々な種類の苗について生育試験が行われています。実際に本システムによりトマト生産を行っている企業では、育苗日数の削減効果などの有効性が証明されています(表3)。


閉鎖型苗生産施設が普及するためには、施設の稼働効率を高める必要性があります。ホウレンソウ、サラダナ、ハネギなどのように周年にわたり栽培される苗の生産では、育苗施設の高い稼働率が見込めます。しかしながら、多くの作物の苗の需要は一般に定植時期である春と秋に集中するため、施設が稼働しない時期が生じます。育苗の端境期の対策として、葉菜の生産を行う方法が考えられています。大規模苗生産を行う場合には良い対策ですが、閉鎖型苗生産施設の普及対象が大規模苗生産業者に限定されてしまいます。
閉鎖型苗生産施設には、小型予冷庫レベル(10m2規模)の施設も市販化されています。これは、産地の生産団体自身が苗を生産することを想定しています。この場合、産地において作期の異なる多種多様な作物や品種の苗の需要があると効率的な施設の稼働が期待できます。小規模で多様な作物を担う農家の多い中山間地の利用にも適した施設といえます。
2005年1月9日の朝日新聞に“都心ビル地下金庫跡で「野菜工場」、転職会社が就農支援”という記事がでました。光源や室温等の栽培環境をコンピュータで制御し、無農薬でトマトやレタスを生産する植物工場を都会の真ん中に導入したという内容です。転職支援会社が都市に多い無職の若者や失業中の中高年の就農支援のために農業研修の場として、交通の便の良い都心にこの工場を設置しました(写真)。
この会社が、大潟村での就農研修に送った中高年サラリーマンやフリーター数は2003年から総勢約100 人にのぼるそうです。また、平成17年2月24日には、小泉首相が同施設を見学したことでも話題を呼びました。

閉鎖型環境で苗を生産する利点として、以下の点があげられます。
1 栽培環境制御が容易
2 低コスト化が可能
