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ホーム > 刊行物 > 農林水産研究開発レポート > 進化する施設栽培~大規模施設から植物工場まで~、5ページ目


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進化する施設栽培-大規模施設から植物工場まで-

4.今後の課題と展望

(1)快適な施設内作業

大規模施設の導入には、家族経営でもパート作業者を雇用する必要があります。安定してパート雇用を確保するには、作業場所が安全であることは基本ですが、さらに快適・衛生的であることが望まれます。軒高の低いハウスと比べて、作業空間が高さ方向に広くとれる高軒高ハウスでは、作業姿勢の改善、見た目の開放感の増加、通気性や温湿度環境の向上などの効果が期待できます。

施設栽培における作業者の快適性や作業能率については、

に係わっています。さらに、作業内容・時間の構成の仕方、さらには人間関係など、労務管理について考慮すべき事項は多岐にわたります。施設生産における作業安全性・快適性に関する研究はまだ始まったばかりですが、適切な労務管理指針の策定のため、さらなる研究の発展が望まれます。

(2)省エネルギー化

施設園芸はフィルムなど多くの石油由来の資材を用い、暖房にも直接石油資源を消費する等、化石エネルギー消費型の農業です。ハウス栽培における投入エネルギーのなかで、暖房消費が極めて大きな比重を占めています。地球環境温暖化防止の観点から、二酸化炭素発生の抑制が求められていることに加え、経営的にコスト削減につながる省エネルギー化技術を開発する必要があります。

省エネルギータイプの施設として、二層三重空気膜構造ハウスが開発されています。その施設は、透明な3枚のプラスチックフィルムから構成され、その上層空間は加圧空気により構造的な強度を支える役割を果たし、下層の密着した隙間の流水によって太陽熱の集熱を行う構造です(図11)。屋根面で集熱され温められた水は、地下埋設パイプを通して、地中に蓄熱されます。夜間の暖房は、昼間集熱した20℃程度の水を再び空気膜の下層を循環させて行われます。現在の暖房能力は、外気温+10℃程度ですが、補助暖房を追加すればわずかな暖房能力で昇温可能となります。地域や気象条件、栽培作物の種類にもよりますが、暖房時の省エネ率はおおよそ100~60%になると試算されています。

二層三重空気膜構造ハウスの構造

(3)植物工場の今後

1)植物工場の利点

植物工場の利点を挙げると、

等があります。しかしながら、このような利点が、消費者に広く知れ渡っているわけではありません。

現在、完全制御型植物工場で生産されている植物は、栽培期間が短く施設の高稼働率が得られるサラダナなどの軽量葉菜類にほぼ限定されています。今後、拡大が期待できる対象作物としては、(i)光が弱くてもよく育つ、(ii)商品としての付加価値が高い、(iii)収穫までの回転効率が高い、などの特徴を有する必要があります。苗生産はこれらの条件を備えた対象のひとつといえ、普及が期待されます。

岐阜大学では、(i)と(ii)の条件に合った植物として、ワサビの苗やワサビ漬け用の葉茎を植物工場で供給するシステムの研究が進められています(写真8)。その他、薬草類も比較的早期に実現可能な植物として期待されています。

蛍光灯を使用したワサビの水耕栽培

ハウス栽培や養液栽培が普及し始めた頃、消費者から、「季節感がない」、「温室育ちや養液栽培の作物は軟弱」、「土から離れた農業は論外」などの拒否反応がありました。同様に植物工場の場合も、特に完全閉鎖型植物工場では、農業からさらに「太陽」をも追放するというイメージが一部の消費者にはあるかもしれません。これらのイメージを改善していくことは植物工場を普及する上で不可欠と思われます。上記のような植物工場の利点を有効に使い、消費者へのアピールを行うことで、植物工場も農業生産の一形態として受け入れられると考えます。

また、植物工場の技術はインテリアなどとして、小さな施設そのものを身近な場所に導入する試みがなされています(コラム7)。いつの間にか生活に密着した技術となっているかもしれません。

2)植物工場の生産コスト

植物工場は1990年代に相次いで建設されましたが、2000年以降の建設はごくわずかにとどまっています。その要因として、建設費とランニングコストの高さが上げられます(表5)。さらに、近年の野菜価格の低迷や、廉価な輸入野菜の増加も、生産コストの高い植物工場にとっては不利な要因です。また、税制上の問題として、植物工場は「工場」並みに扱われ、「農業生産施設」としての優遇措置が確立されていないことも要因といえます。リーフレタスを生産する植物工場の例では、施設償却費用等の割合が25%と高く、ランニングコストでは電気料金は18%、人件費も常勤非常勤を併せて26%と大きくなっています。また、物流や包材費も14%を占めるため、より効率的な流通および廉価な包装資材の技術開発が必要です。

植物工場でのコスト高の要因

植物工場の建設費では、通常の大型園芸施設に比べて17倍必要で、ランニングコスト(光熱費)に至っては47倍もの経費が掛かり(表6)、建設費及び光熱費の削減に対する取り組みが重要であることは明らかです。現在、施設栽培においては低コスト耐候性ハウスの普及等を通して設置コストの削減が図られており、植物工場のコスト削減につながる技術として期待されています。植物工場に限らず、施設栽培全般において、コスト削減は常に求められている課題です。

植物工場と施設生産のコスト比較

(4)今後の施設園芸研究

植物工場は、施設園芸の一部であるところから、植物工場の技術開発に向けた研究により、広い意味での施設園芸の各研究分野に対して、技術開発を促進する知見が得られると考えます。また、研究の進んでいる施設園芸全般の技術についても、植物工場の技術に応用できるものも多くあります。生産現場に近い施設園芸技術と、最先端の植物工場の技術の融合で新たな技術開発が期待されます。

植物工場を含めたわが国の施設園芸が、今後発展していくためには、経営者、作業労働者、産地・地域生活者、消費者から支持される必要があります。そのためには、環境負荷をより低減し、高品質・安全、低コスト生産を実現できる低コスト施設生産システムを確立することが必要です。その上で、収益性を大幅に向上させることも求められています。

このような施設生産の目的を達成するためには、開発のターゲットを明確にし、施設─作物─管理─経営を統括した技術体系、総合的な施設生産研究に取り組む必要があります。具体的には、低コスト施設の開発、環境制御の高度化、施設生産における大幅な労働時間の短縮が可能な栽培管理技術の開発、施設生産における低コスト・高品質・安全・環境負荷低減型生産技術の開発、施設における生産計画・経営支援システムの開発等を、産官学の連携の下、実施する必要があります。このような技術開発を通して、植物工場を含めた施設園芸生産システムは、進化し続けると考えています。


コラム7 将来は家庭にも植物工場?

インテリアとしての利用:植物工場に利用されてきた技術は、他の分野でも注目を集めています。植物は食べ物として利用されるだけでなく、盆栽に代表されるように観賞用として利用されてきました。都市生活者が増加する中にあって、いわゆる癒しを求めるために様々な生物が活用されていますが、都市のモダンな内装に合う現代版の盆栽もLED 光源などの新規の技術と融合することにより新たな製品となりつつあります。園芸療法(Horticultural Therapy) など植物を育てる行為により精神的な安定が期待できることも、最近では研究の対象となってきています。観賞用植物は、植物の少ない都会に生活する現代人にアピールするアイテムのひとつとなりつつあります。作品は長岡造形大学産業デザイン学科の土田知也教授の研究室で試作された作品です。

インテリアとしての植物工場技術の利用

(執筆担当:寺島一男、中野明正、井原史雄)


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