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魚と貝のバイオテクノロジー-安全で信頼できる魚と貝を目指して-

3.貝による食中毒を防ぐ

(1)魚や貝の毒―なぜ毒を持つのか?―

魚や貝の中には、フグをはじめとして有毒な成分を持ち、食中毒の原因となるものがあります。水産食品として重要なホタテガイ、カキ、アサリ、ムラサキイガイなどの二枚貝類が原因として起こる貝毒はその一つであり、我が国では、麻痺性貝毒と下痢性貝毒の2種が知られています。いずれも複数の有毒成分が貝の中に含まれており、麻痺性貝毒の中毒を起こした場合には、しびれ、麻痺、けいれんなどの症状が現れ、最悪の場合、呼吸麻痺により死亡します。一方、下痢性貝毒では、下痢や嘔吐などの症状を引き起こしますが死亡例はありません。

貝毒の原因成分は、餌であるプランクトンに由来します(図10)。麻痺性貝毒成分を持つプランクトンは、世界に約10種類あります。そのうち、国内で麻痺性貝毒の原因となっているものは、Alexandriumtamarenseとその同属2種及びGymnodinium catenatumの計4種の渦鞭毛藻類です。下痢性貝毒の原因となるものは、同じく渦鞭毛藻類のDinophysis fortiiなどが知られています。二枚貝類は、プランクトンを摂餌しているため、有毒成分をもつプランクトンが発生した海域では、これを摂餌して毒成分を体内に蓄積します。ただし、貝毒成分の蓄積や排出は、二枚貝の種による違いがあるため、種ごとに毒化の状態を把握して管理する必要があります。

さらに近年は、毒化した二枚貝を捕食したカニ類やエビ類にも毒を蓄積するものがあることも明らかとなってきました(図10)。平成11年、麻痺性貝毒が発生した東北地方の沿岸域でトゲクリガニの消化腺である肝膵臓部から高い毒性が検出されました。トゲクリガニの筋肉部にはほとんど毒性がありませんでしたが、肝膵臓部はいわゆる「かにみそ」として食べられるため大きな問題となります。

食物連鎖による魚介類の毒化課程を示す模式図

このため、これまで貝類にのみ規制基準値が示されていた麻痺性貝毒について、平成16年には二枚貝を捕食する生物についても厚生労働省により規制基準値が示され、同時に、二枚貝類が毒化した海域では、それらを捕食する生物について、毒化実態の調査を行い、安全性を確保することが求められています。したがって、今後は、国内でもより広範に食物連鎖を通じた水産生物の毒化を調査し、効率的な監視体制を構築することが必要となっています。

(2)貝毒の監視と出荷規制

我が国では、現在、貝毒を持った二枚貝が食卓に上ることがないように、漁場においては有毒プランクトンの監視が行われており、水揚げされた二枚貝に対しては産地や消費者市場でマウスを用いた毒性試験が行われ、安全性が確認されています。この検査で二枚貝の毒力が基準値を越えると、生産者による出荷自主規制措置が講じられます。こうした貝毒監視体制により、市販されている二枚貝で貝毒による食中毒が起こることはほとんどなくなりました。

しかし、マウスを用いた毒性試験には3つの問題点があります。(i)感度が悪く検査に時間がかかること、(ii)マウスの健康状態などにより検査結果が変わること、(iii)検査がマウスの命の犠牲の上に成り立っていることです。

欧米諸国では、生きた動物を検査に使用することを可能な限り制限しようとする動きが広がっており、貝毒検査においても、マウスを用いた毒性試験に替わる検査法の開発が始まっています。

(独)水産総合研究センターでは、二枚貝の安全性をさらに高めるため、国内の大学や試験研究機関と協力して、動物試験の問題点を解決し、より効率的な新しい貝毒検査法を開発しました。

1)貝毒の簡易検査法の開発

抗原抗体反応とは、生物が身体を外からの侵入者(ウイルス、毒物)から守る仕組みで、侵入者は抗原と呼ばれ、抗原に結びついて抗原の毒性やウイルスの感染性を失わせるのが抗体です。

今回開発した貝毒の検査法(図11)は、(i)貝毒に結びつく抗体で貝毒を識別して、(ii)その後に人工的に作った貝毒(標識貝毒)を抗体に結び付け、(iii)発色処理により色をつけ、(iv)色の強さ(発色率)を測定して貝の中にあった毒の量を測定するという方法です。

色が強く出る場合には毒が含まれていないことになり、色が弱い場合には毒が多く含まれていることになります。

抗原抗体法による貝毒検出の原理

この手法の正確さを確かめるために、貝が毒化する時期に国内の様々な生産地から二枚貝を集めて、それらの毒力を動物試験と抗原抗体法の両方で調べて比較しました(図12)。

その結果、動物試験で国の規制基準値以上の毒を持った二枚貝は、抗原抗体法でも全て基準値を越えました。さらに、抗原抗体法では、動物試験では貝毒が見つからなかった検体(図12、647検体)について、その7割の検体(図12、495検体)から極めてわずかな貝毒を検出することができました。

動物試験と抗原抗体法で調べた二枚貝の麻痺性貝毒の毒力の比較

これらの結果は、抗原抗体法が動物試験よりもわずかな量の貝毒も見逃さないことを示しており、抗原抗体法は、貝毒の環境中の発生状況のモニタリングに動物試験よりも適していると言えます。

抗原抗体法は、素早く正確に貝毒を検出でき、しかも高価で大掛かりな機械を必要とせず、動物試験と比べると検査費用が安価であり、生産者や流通業者が必要に応じて貝の毒を調べることが可能となります。現在、専門検査機関のみで行われている貝毒検査に加えて、各流通段階で貝毒を検査することが可能になるため、抗原抗体法のような簡易検査法の更なる研究開発が期待されています。

2)貝毒の高精度検査法の開発

従来の動物試験では、二枚貝をすり潰して作った検査液をマウスに注射し、24時間観察してマウスの生死により毒力を判定していました。

近年、ある物質の量を正確に測定したり、正体を突き止める方法である質量分析法を応用した貝毒の検査法により、20分という短時間で、約10種類の下痢性貝毒の全てを検査する質量分析法が開発され、毒性を持つ危険な二枚貝を以前よりはるかに短時間で見つけることができるようになりました。

この質量分析法の正確さを確かめるために、様々な産地の二枚貝の下痢性貝毒の毒力を動物試験と質量分析法で比較しました(図13)。動物試験で国の規制基準値以上の毒を持った二枚貝の大半は、質量分析法でも基準値を超え、毒を持つと判定されました。基準値を超えない残りの1割強は、実験で用いたマウスの健康状態などが影響して、毒を持たないのに有毒と見なされた可能性が高いと考えられます。

動物試験と質量分析法で調べた二枚貝の下痢性毒の毒力の比較

一方、質量分析法で基準値を超えた検体のうち6割は、動物試験では基準値以下という結果になりました。その理由は、ある種の毒成分は動物試験で調べることが難しいため、実際には毒が含まれているにも係わらず、含まれていないと判定されたためです。これらの貝は、食中毒の原因となるほど危険な貝ではありませんが、質量分析法は、動物試験よりも確実に毒を見つけ出すことができる検査法であることが示されました。前述の抗原抗体法のような簡易検査法をスクリーニング検査(一次検査)に利用し、質量分析法のような高精度検査法は、スクリーニング検査で陽性となった二枚貝に対する確定検査として利用することができます。

ここで紹介した2つの検査法をはじめ、その他開発中の検査法が実用化されれば、動物試験を減らし、より迅速かつ効率的に貝毒の発生状況が把握でき、より安全な二枚貝を消費者に届けることができるようになるでしょう。

 

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