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魚と貝のバイオテクノロジー-安全で信頼できる魚と貝を目指して-

4.丈夫な魚と貝を育てる

(1)丈夫で成長のよい品種をつくる

例えば、味が良くて飼育しやすく成長も早い、私たち人間にとって都合のよい特徴を持った個体(親)同士を交配して、さらに優れた特徴を持つ個体を作ることを育種と言います。

農業や畜産分野では、人類の長い歴史の中で、野生の植物や動物から育種によって新しい品種を作ってきました。

水産分野においては、金魚は、長年にわたり品種改良が行われ、様々な形や色の品種が作られてきました。また、ニジマスなどは、何世代もかけて成長の良い系統や飼育上で都合の良い時期に産卵時期を変化させた系統が選抜され、固定されています。

しかし、これらを除くと、私たちが利用している魚貝類の大部分は、基本的に野生生物そのものです。

近年、国内はもとより世界中で生産量が増加している養殖業は、飼育された親魚から卵を採って養殖種苗(稚魚)を作っている場合でも、品種からみれば野生の魚貝類を生け簀や池の中で飼育しているに過ぎません。養殖業の更なる発展のためには、野生の魚貝類を「家畜」ならぬ「家魚」化するための技術開発が期待されています。

近年、成長が早い、食味が良いなどの特徴の発現に関与する複数の遺伝子の近くに存在する特徴的な塩基配列(DNAマーカー)を目印として探索する方法(QTL:Quantitative Trait Locus)が開発されました。この手法を用いて、イネや家畜において高成長や肉質の良さなどの形質に関連するDNAマーカーや遺伝子の位置がわかってきています。DNAマーカーの育種への応用として、有益な形質と連鎖するDNAマーカーの型を特定して、良い形質をもつ個体の選抜を行い、優良な血筋を造り上げていく方法(マーカーアシスト選抜)が行われるようになってきました。成長性などに直接関与する遺伝子そのものを特定するには多大な労力が必要ですが、遺伝子そのものが特定できなくても、DNAマーカーの型と形質に有意な関係があればこの情報を育種に利用することができます(図14)。

マーカー育種の概念図

このDNAマーカーの情報を用いると、卵・精子の段階の多数の個体について、有用な形質の有無を短時間で判定できるため、今までの選抜育種法に比べ、大幅な施設規模の縮小、扱える個体数の増加、所要時間の短縮が図られ、コスト削減効果も大きいと考えられます。

「丈夫で成長の良い魚を選ぶ」ことについては、養殖対象種の中から高度に病気に強いもの、高度に成長性の高いもの等を探します。

しかし、通常は複数の良い形質を同時に持っていることはありません。そこで、高度に病気に強い形質を持つもの、高度に成長性の高いもの、それぞれの形質に連鎖するDNAマーカーを探し出します。そして、これらのDNAマーカーを持つ雌雄をかけ合わせ、子供から双方のDNAマーカーを持つ個体を選ぶことにより、双方の形質を持つ個体を選ぶことができます。このようにして、良い形質を持つものを一つの個体に集めていく(固定)ことにより、優良な品種を作ることができます。そのためには、より多くのDNAマーカーによって作られた遺伝子の連鎖地図(各遺伝子がどの染色体のどの位置に存在するかを表すもの)が必要となりますが、現在、ニジマス、ヒラメ等の複数の魚種において、高成長や耐病性などの付加価値をつけた品種改良のため、精力的に遺伝子連鎖地図の開発が進められています(表1)。

遺伝子連鎖地図が研究されている主な養殖対象種一覧

1)成長の早いブリづくり

ブリは、日本列島近海を南北に移動する大型の回遊魚です。また、成長に応じてモジャコ、ツバス、ワラサ、ハマチ、イナダ、ブリなどと呼び名が変わる出世魚として、西日本ではマダイなどと並んで祝いの席に欠かすことができない魚です。

現在では、天然ブリの漁獲量が6万トンに対して、養殖ブリの生産高は年間15万トンと、国内供給量では養殖ブリが大半を占めるうえ、養殖ブリの生産金額は1,200億円(天然ブリは270億円)と、金額的に水産養殖で最大となっています。

しかし、ブリは、現在に至るまで養殖用種苗はほぼ100%を天然採取の種苗(モジャコ、図15)に依存しているため、計画的な生産や安定的な経営を行う上で大きな障害となっています。

ブリの養殖用種苗の写真

そこで、ブリ種苗を安定的に確保するため、飼育した親魚(養成親魚)から採卵し、モジャコを人工的に生産する技術の開発が必要となっています。

ブリの主な産卵場は、九州南方の東シナ海で、産卵期は2~3月です。一方、人工種苗を生産している四国太平洋沿岸や九州東シナ海沿岸の種苗生産場の生簀は、産卵に必要な海水温(19℃)に達するのが九州南方海域より約2ヶ月遅いため、4月下旬から5月上旬にならないと生簀の親魚は産卵しません。このため、この時期に得られた卵から育てた人工種苗は同じ時期の天然モジャコに比べると著しく小さく、もっと大きな人工種苗を生産するために、親魚の産卵期を早める技術の開発が強く望まれてきました。

近年、ブリの親魚を9月中旬に陸上水槽へ収容し、水温と光の条件を調節して親魚の成熟を促進し、12月中旬に成熟確認後にホルモンを使って産卵を促す技術が開発されました。その結果、従来よりも4ヵ月早い12月下旬に、大量の受精卵を得ることが可能となりました。

この12月採卵によるふ化仔魚の成長は、従来の産卵期(4月下旬~5月上旬)のふ化仔魚と差はなく、この人工種苗は、4月下旬から5月上旬の天然のモジャコ漁が解禁される時点で、平均体重で約100gに達し、天然モジャコ(体重3g)より明らかに大きなサイズになりました。その後、海面生簀で飼育を継続したところ、満1歳になる12月下旬には平均体重で2.3kg(最大個体は2.8kg)に達し、天然モジャコを養殖した場合に比べると体重で最大2倍近く大きなブリを育てることに成功しました(図16)。

12月採卵の人工種苗由来の養殖ブリと同時期の天然種苗由来の養殖ブリの比較写真

従来の養殖方式では、出荷サイズに達するのに約2年半の養殖期間を要していますが、大幅に短縮することができました。

12月採卵型の養殖方式の開発により、サイズの大きい人工種苗を計画的かつ安定的に確保することが可能となり、(i)天然モジャコ採捕の減少により天然ブリの資源保護に貢献し、(ii)養殖期間の短縮により大幅なコスト削減が可能となり、(iii)1年間の飼育で2kg以上に育ち、年末の需要期に出荷可能なため市場の拡大につながるなど、ブリ養殖の新たな進展が期待されます(図17)。

現在のブリ養殖方式と12月採卵ブリ養殖方式の比較図

今後は、天然モジャコとの差別化を図るため、人工種苗に「病気に強い」あるいは「おいしい」などの付加価値を持たせる技術の開発が必要です。この技術の開発によって、病気に強く(=薬を使用しない)かつ成長が速い(=低コスト)、消費者と生産者の双方にとってメリットのある人工種苗の生産が可能となり、安くて美味しく安全で、かつ安心して食べられる養殖ブリの提供に大きく貢献することが期待されています。

2)病気に強いヒラメづくり

ヒラメは、味がよい白身の魚で消費者の人気が高いことから、天然資源を増やすため、人工種苗が日本各地で放流されているほか、比較的飼育しやすいため、陸上養殖を含め日本各地で養殖されています。しかし、病気に強いヒラメの系統はまだ確立されていません。

健康な養殖魚を生産するために、より病気に強い個体を養殖集団から選抜できれば、飛躍的な生産効率の向上や抗生物質などの薬の使用量の低減も可能となります。しかし、これまで病気に強い性質を持つ魚を外観から区別できないため、病気に強い系統を確立することは困難でした。

遺伝子塩基配列上に散在する病気に強い遺伝子を効率よく探すには、DNAマーカーと遺伝子連鎖地図が必要となりますが、現在、これを利用して、リンホシスチス病に対して抗病性のあるヒラメを通常のヒラメと交雑し、通常のヒラメの優良形質を保持しつつ、リンホシスチス病抵抗性を付加した新しい品種を作り、その実用化試験が行われています。耐病性を持ったヒラメの系統が確立すれば、より安定したヒラメの養殖生産が期待できます(図18)。

種苗放流後再捕されたヒラメの写真

 

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