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ホーム > 刊行物 > 農林水産研究開発レポート > 魚と貝のバイオテクノロジー-安全で信頼できる魚と貝を目指して-、7ページ目


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魚と貝のバイオテクノロジー-安全で信頼できる魚と貝を目指して-

6.おわりに-水産バイオテクノロジーの将来-

将来の水産バイオテクノロジーには、どのようなことが期待されているのでしょうか。消費者に役立つ(i)安全・信頼確保、(ii)生産性向上、(iii)新産業創出の3つの視点から考えてみましょう(図28)。

水産バイオテクノロジーの将来方向の概念図

(i)安全・信頼性確保:病気の診断や貝毒の検出について、ここで紹介した診断技術を基により迅速な診断技術が求められます。同時に、必要最小限の成分を調べることにより、誰でも容易に診断できるキット化が求められており、その開発が進むと思われます。また、産地判別技術は、トレーサビリティの必要性とともにますます重要視され、ここで紹介していないタンパク質を用いた魚種判別方法や飼育に伴う成分差を利用した判別方法などの発展が期待されます。

(ii)生産性向上:現在、水産養殖業が対象としている魚貝類の殆どが野生種であり、新しい育種技術の開発が必要です。

その方法として、マーカー選抜育種は、水産育種にとって最も合理的であると考えられます。

また、天然もしくは極めて天然に近い状況の親から育種することから、家畜に比べてはるかに高い遺伝的多様性を持っていることが予想され、選抜効果は高いと考えられています。

品種の付加価値となる形質である筋肉の物性や脂肪の蓄積性、体色など、魚貝類の品質上の特徴は、近縁種であっても大きく異なる場合があることから、これらの遺伝的背景にも種特異的な遺伝子が関与する可能性があります。

このように、成長促進、耐病性、ストレス耐性、早熟などに関わる遺伝子機能の解析と優良形質をもつ魚貝類の育種は、現実的な課題となってきています。遺伝子組換え技術は、特定の遺伝子を新しく付与することによって、その生物が持っていなかった特性を付け加える方法として魚貝類においても研究開発が進展しています。特に、成長性を大きく高める(数倍から数十倍の成長速度)成長ホルモン遺伝子導入魚は、実用化の域に達しており、米国/カナダの企業が米国食料薬品局(FDA)に食品としての安全確認の申請を行っており、市場への流通は近いとの見方もあります。

遺伝子組換え生物も将来の育種技術の選択肢の一つであることは間違いありませんが、食品としての安全性や、万一、環境中に組換え生物が出た場合の環境に対する影響など、安全性についての研究が重要です。

(iii)新産業創出:例えば、ゼブラフィッシュ及びメダカのゲノム(遺伝子情報全体)解析が進行してしており、これら2種のさまざまな突然変異個体が作出され、遺伝学上の利点から、モデル生物としての利用が広がっています。

また、魚類を脊椎動物のモデルとして、アルツハイマー症、心臓病、糖尿病などの遺伝子疾患の原因遺伝子の同定と突然変異個体の作製が行われています。脳・神経系、免疫といった高等動物の高次な機能、発生、成長、老化といった生命の基本現象の解明も、遺伝子解析技術の進歩に応じて魚類を利用して急速に進んでいます。

他方、培養条件により、様々な臓器に分化することができる幹細胞を培養する技術も注目されています。

魚貝類で幹細胞を培養することができれば、再生医療用の生体組織を試験管内で再生することが可能になり、希少種の保存や新しい増養殖技術、物質生産技術に発展するでしょう。

現在、ニジマスなどの卵を、ヒトインターフェロンなどの有用物質を生産する生物工場として利用する試みが始まっています。

遺伝子や細胞を扱う次世代のバイオテクノロジーは、実験室内のモデル生物の研究だけではなく、野生の生物やその集団を研究の対象に捉えています。人類にとって有用な遺伝子の発見を目指す上で、多様性に富む水産生物は、まさに“探索しがいのある”対象であり宝庫と言えます。(執筆担当:和田時夫、木村 量)


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