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ホーム > 刊行物 > 農林水産研究開発レポート > 広域回遊魚類(ウナギ・マグロ)の完全養殖技術開発、4ページ目


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広域回遊魚類(ウナギ・マグロ)の完全養殖技術開発

1.ウナギ人工種苗の実用化を目指して

(4)ウナギ仔魚の正常な育成のための飼料の開発と飼育環境

1)仔魚の発生

人工授精した卵は水温19~28℃の範囲でふ化が可能ですが、19℃ではふ化率が低く、ふ化しても奇形をもつものが多く出現します。一方、高水温域では死卵の腐敗による水質悪化が起こりやすく、ふ化が不安定になる場合が多いので、かつては正常にふ化する低温限界に近い21~22℃で授精から摂餌開始まで管理していました。その後、濾過や紫外線殺菌による飼育水の管理技術が向上したので飼育水温を上げることが可能となり、最近は25℃で初期飼育を行っています。25℃は実験的に最も奇形の発生が少ない水温であり、また、最近初めて採集された天然のプレレプトケファルスも25~28℃前後の水温帯に分布すると推定されたことから、合理的な飼育水温であるといえます。

図7に示したのは23℃での発生過程ですが、受精後35~40時間でふ化し、ふ化後3~4日で口と肛門が開き、6日で目が黒くなるとともに口が前方に向きを変え、消化酵素も分泌されるようになって、7日目頃に餌を食べる準備が整います。卵に蓄えられた栄養分は喉の部分に油球となって残っていますが、9日目頃にはほぼ消失し、その後適当な餌を食べることができなければ、次第にやせ細ってふ化後2週間程度で死滅するという過程をたどります。

 

図7 ウナギ仔魚のふ化後の発生過程(23℃)

2)人工飼育を実現した飼料の開発と仔魚の成長

1973年に北海道大学で世界初の人工ふ化に成功して以来、90年代初めまでの仔魚飼育の試みでは、卵の栄養を使い果たすふ化後2週間、全長7mm前後まで生存させるのが限界でした。それは、仔魚の適正な餌が不明で、給餌飼育に成功していなかったためです。養殖研究所の田中秀樹グループ長らは海産魚の種苗生産には欠かすことのできない初期餌料であるワムシを、様々な発育段階の仔魚に繰り返し給餌することを試みました。その結果、1994年、ふ化後13日目の仔魚がワムシを食べているのを初めて確認しましたが、十分な量のワムシを持続的に食べさせることはできず、再三の給餌試験にもかかわらず、ワムシを餌とした飼育では卵黄吸収完了後の成長や生存期間の延長といった給餌の効果は現れませんでした。そこで、再び餌の候補を広い範囲から見直したところ、サメ卵低温乾燥粉末を非常に良く食べることを発見しました。しかし、サメ卵は短時間で飼育水中に分散してしまうので水質の悪化を招きやすく、長期の飼育には飼育管理法に工夫が必要でした。

サメ卵粉末を濾過海水に懸濁させたポタージュスープ状の餌を調製し、容量5ℓの小さなアクリルボウル水槽の底に、長いガラスのスポイトで静かに流し込んでやると、仔魚は光を避けようと水槽の底に集まって効率的に餌を飲み込みます。15分程度で仔魚の消化管は餌で満たされるので、注水によって残餌を洗い流し、水槽内を清潔に保つよう管理します。このようにして2時間間隔で1日5回給餌し、夜間にサイフォンを用いて仔魚を新たな水槽に移動させることによって継続的に飼育する方法を開発しました(図8)。この飼育法により、ウナギの仔魚が自ら食べた餌を消化吸収し、生存期間を伸ばすとともに成長することが世界で初めて確認されましたが、サメ卵粉末のみからなる餌ではふ化後約1か月間、全長10mm程度まで成長させるのが限界で、その姿形は柳の葉のように幅の広い天然のレプトケファルスとはまだ大きな隔たりがありました。

図8 ポタージュスープ状の餌を用いたウナギ仔魚の飼育方法

非常に未熟な発育段階でふ化してくる海産魚の仔魚は、胃がないために消化機能が十分発達しておらず、餌に含まれる蛋白質を効率的に吸収できないので、ペプチドのような低分子のタンパク源を必要とします。そこで、サメ卵粉末をベースとし、消化機能の十分発達していない仔魚でも吸収しやすいオリゴペプチド(タンパク質を酵素によって分解したもの)を添加するとともにビタミン・ミネラルを強化し、オキアミ抽出液に懸濁させた餌が試作されました。その結果1998~99年には、従来の飼育方法では成長が停滞したふ化後20日目以降も順調な成長が続き、30日で平均全長は10mm、50日で15mmを越え、100日目には20mm以上となりました。また全長10mmを越える頃から全長に対して体高が高くなり始め、その後、歯や鰭も発達して天然のレプトケファルスに近い形となって、大きいものは全長30mm以上にまで成長しました(図9)。しかし、天然に比べて成長が遅く、シラスウナギに変態するとされる全長50~60mmに到達せず、変態することなく衰弱死してしまうという状況が繰り返されました。

図9 新たな飼料によるウナギ仔魚の成長

様々な観点から餌の検討が重ねられましたが、健全に成長しない原因はなかなか見つかりませんでした。そもそも、人工ふ化したウナギの仔魚は健全な状態で生まれているのかということも疑われ、親魚の養成や人為的に成熟させる方法についても検討が続けられました。そのような状況の中で、養殖研究所と共同研究をしていた企業から有益な情報が提供されました。すなわち、従来の飼料に添加していた大豆ペプチドにはフィチン酸と呼ばれるリン化合物が含まれ、ミネラルやタンパクの吸収を阻害する可能性があるので、酵素処理によってフィチン酸を低減した大豆ペプチドを開発したので試してみないかとのことでした。また、別の共同研究相手からは様々なエキス成分やペプチドに富むオキアミの酵素分解物も提供され、その添加効果も検討されました。一方、同じ時期に餌の主成分であったサメ卵粉末が製造中止となったために、冷凍サメ卵を使わざるを得なくなりました。様々な飼料を調製して、多くの飼育実験を重ねた結果、最終的に冷凍サメ卵、フィチン酸低減大豆ペプチド、オキアミ分解物、オキアミ抽出液、ビタミンなどからなる餌が考案され、長期的な飼育試験が繰り返し行われました。その結果、ついにウナギ人工ふ化仔魚は全長50~60mmの変態開始サイズのレプトケファルスにまで成長し、シラスウナギに変態するものが出現したのです(図10、コラム6)。

図10 人工生産されたシラスウナギ


コラム5  天然海域でウナギレプトケファルスは何を食べているのか

これまでに2000尾を超えるウナギのレプトセファルスが天然海域で採集されていますが、大部分の個体で消化管内容物は何もないか、形の不定な粘液質のものが見られるのみで、天然の餌についての明確な報告はありません。かつては、レプトケファルスの特異な形態と未発達な消化管から、体表から海水中の有機物や微小懸濁粒子を栄養源として取り込むとの説もありましたが、エネルギー収支の観点などから否定されつつあります。

様々なプランクトンに対する抗体を用いて、台湾東方海域で採集されたウナギやギンアナゴのレプトケファルスの消化管内容物を分析した研究では、オワンクラゲやクロカムリクラゲなどのクラゲ類やヒカリボヤなどの抗体に対する陽性反応が確認されています。この結果は、レプトケファルスがこれらのゼラチン質プランクトンを直接食べたかあるいは死骸や分泌物を含む有機懸濁物を食べた可能性を示しています。また、沿岸で採集されたウナギに近縁なマアナゴ、クロアナゴ、ハモのレプトケファルスの消化管からは動物プランクトンの糞粒や尾虫類の包巣(微小な餌粒子を濾しとって食べるためのゼラチン質の分泌物)が高い頻度で見つかっています。いずれも海水中の粒状懸濁物、いわゆるマリンスノーといわれるもので、海洋中には極めて豊富に存在し、有機物に富むものです。また、レプトケファルスの体を構成している窒素および炭素の同位体比の分析からも、生息海域の有機懸濁物を主要な餌としていることを支持する結果が得られています。

これらの結果を総合すると、天然のウナギレプトケファルスはゼラチン質プランクトンなどを起源とするマリンスノーを主に食べているという説が有力ですが、その構成要素や栄養成分の特定には至っていません。最近始められた消化管内容物のDNA解析によるアプローチでは、これまでに真菌、珪藻、クラゲ類などのDNA配列がわずかに得られていますが、餌生物を特定するにはさらなる研究が必要です。


コラム6  仔魚の変態過程

人工ふ化したウナギ仔魚は、ふ化後200~300日で全長50~60mmに成長したのち、透明な柳の葉のようなレプトケファルス幼生から筒状のシラスウナギへと急激に姿を変えます(図11)。この過程を、オタマジャクシがカエルになるのと同様に変態と呼びます。このときの変化をよく観察すると肛門と背びれおよび尻びれの始まる位置が前方に移動し、体高は低くなっていきます。牙状の歯が吸収されて細かい歯が出現し、眼が小さくなり、鰓(えら)が発達し、赤血球が出現して心臓が赤く見えるようになり、筋肉が発達して遊泳力が高まり、比重が重くなって水槽の底に沈み、尾びれから側線にかけて黒い色素が出現するなど多くの変化が見られます。変態に伴うこれらの変化は水温21.5℃では20日前後かかりますが、25℃ではわずか10日ほどの間に完了し、全長が若干短くなるとともに体重は5分の1ほどに引き締まります。天然のウナギに関してはこのような変態過程は詳細に観察されていませんが、ふ化から変態までに要する期間は耳石日周輪の解析から80~170日と推定されており、人工ふ化仔魚の飼育下での成長は天然のものには及びません。

図11 レプトケファルス幼生からシラスウナギへの変態過程(ふ化後258日、全長57.6mm~269日、57.3mm、水温25℃)


3)飼育装置と飼育方法の工夫、改良

天然の状態では、ウナギ仔魚はきわめて清浄な海域に生息していますが、人為的な環境下では給餌に伴う水質の劣化や汚れた水槽の壁面との接触は避けられません。このため、長期にわたる飼育期間中の生残率低下に影響があると見られる飼育環境中の微生物のコントロールなどとともに、飼育装置の改良など飼育環境の最適化に向けた技術開発を進めています(図12)。

図12 様々なタイプの飼育装置が並ぶ飼育実験室

内部の凹凸が少なく、自然な水流によって仔魚がなるべく水槽壁に接触しない形状の水槽の開発、水槽壁に汚れを残さない飼育管理法の徹底などが工夫されました。また、飼育の初期には、夜間、仔魚が水面に張り付いて死んでしまう浮上死が多数観察されたため、その対策として飼育水に微量の卵白を添加することによって浮上死を防止する方法が開発されました。小さな水槽での飼育だからこそ可能な卵白の添加によって、初期の生残率は大きく上昇しました。

天然のウナギ仔魚は、透明度の高い外洋のかなり水深のあるところに生息し、昼は深く潜り、夜間は浮上してくると推定されています。透明度の高い水中では青い光が最も透過性が高いので、天然のウナギ仔魚は青い微弱な光環境の中に住んでいると考えられます。そこで、飼育室の光の色や強さについても検討がなされました。当初は、強い光はストレスを与えるために、可能な限り暗くした方がよいだろうと思われていましたが、暗くすると仔魚の行動が不活発になり、摂餌活性も低下して飼育成績はかえって悪化しました。一方、一日中明るくすると、絶えず水槽の底に向かって懸命に泳ぐのでエネルギーの消費が高まって成長が悪くなります。結局のところ、給餌するときは500~800ルクス程度の照度とし、それ以外の時間は薄暗くしてやるのが最も良いことが分かりました。光の色に関しては、赤い光に対する感度が低いことが示唆されましたが、青い光と白い光では特に差が見られず、光の波長にはそれほど気を遣う必要のないことが分かっています。

 

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